ACL Japan vs Korea
〜whistle! ver〜

ロッカールームに入った頃から妙に山口と一馬がそわそわしているのには気づいていた。
藤村と結人はにやにやとしているし、渋沢もちらちらと俺を窺うように見てくる。

確かに今日は俺の誕生日だが、何なのだと少しだけ試合前の気持ちがイラついていた。


代表戦の日に誕生日を迎えるのは初めてだ。
ましてやその試合が従兄弟がキャプテンを務める韓国戦だなんて、事実は小説よりも奇なりとはいうが、些かできすぎている気がする。

そんな中監督が入ってきて一通り今日の戦術を確認した後、おもむろに藤代が手を上げた。

「はいはい!俺っていうか俺らから提案があるんだけど!!今日は何の日か分かるよね!」

その言葉に下手な芝居を打って全員が頷く。

「ってことで、郭!」

山口が俺の腕にキャプテンマークを巻く。
固まった俺をロッカールームにいる全員が笑って見ている。

「………本気なの。」

ため息交じりに漏らした言葉だが、表情が合っておらず緩んだ顔をしているは自覚していた。

「コイントスとペナント交換は任せた。まっ、心のゲームキャプテンはまだまだ譲らないけど。」
少年のように笑った山口とその後ろで渋沢が深く頷いているのが、視界に入る。

「本当のプレゼントは勝つことなので、僕からのパスは毎回ちゃんと決めてくださいね〜。」
藤代くん、藤村くんと須釜が間延びした口調で2人に言えば、それを向けられた当人たちは苦笑いを漏らした。

「ほら、キャプテン!チームをまとめなきゃ。」

結人が俺の背中を叩いて、一馬が肩に手を乗せた。

「勝ちに行くよ。そのためにはやっぱり決めてもらわなきゃね。」

俺の言葉にロッカールームがどっと笑いで溢れる。

あとは勝利が手に入れば、最高の誕生日だ。

そう簡単にいく筈ないのは、俺が1番良くしっているが。



ピッチに出て、最初に目に入ったのはやっぱり赤のユニフォームを着た見慣れた顔だった。

俺の腕のキャプテンマークを見て、ユンは一瞬驚いた表情をしたが、すぐにそれを挑戦的な笑みに変えた。

「誕生日だから勝たせてなんてお願いしたらいい?」
握手をしながら冗談混じりで言うと、握った手に力が込められた。

「ヨンサの誕生日だから僕の華麗なゴールをプレゼントするね。」
俺を射抜くようにして真直ぐに向けられた言葉には、からかいなど微塵も感じられなかった。



ホイッスルが鳴り響く。

これからの結果はサッカーの女神のみぞ知る。



(2011.01.25)

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