まさゆず

葉をすっかり落とした街路樹を眺めながら、最近ますます寒くなってきたなと思う。
仕事からの帰り道、信号待ちでユズはかじかむ指を擦り合わせて白い息を吹きかけてから、手をコートのポケットに入れる。


「手袋忘れたのも、マサキがいけないんだ。」


付き合いだしたころから、出かけるときは迷子とか足場が悪いとか何かと理由をつけて手を繋ぎたがるのが私。
そして、そんなユズに困ったように笑いながらもその手を握り返すのがマサキなのだ。
でも寒い季節になると、冷え性なユズを暖めるためと言ってマサキはさりげなくユズの手を取るようになった。

そんなマサキは、手袋の感触があまり好きではないらしい。
(付き合って1年半………口に出されたことはないけど、そういうことは表情で読み取れるようになった。)

だからマサキは自分でも手袋を滅多につけないし、手を繋ぐユズも2人で出かけるときは自然と手袋を付けなくなった。
そんなことに慣れてしまったからこそ一人で出かける時もユズは手袋を忘れることが多くなる。


会社の後輩には年かなとボケてみたが、原因はただの惚気だ。

「…早く帰ろう。」

ちょっと赤くなった頬を隠すようにマフラーを上げてから、横断歩道を渡り、帰り道を急ぐ。




「ただいまぁ?。」
ユズは玄関でブーツを脱ごうとして、違和感に気づく。

見間違えることのない少し年季の入った鈍い黒の革靴は、マサキのものだ。

「おかえりユズ。早かったんだな。」
視線をあげれば、振り返ったマサキがユズに顔だけ向けた。
両手には座卓の天板を持って。

「あ、うん。今日は残業とかなかったし。…マサキ、何しているの?」
確かに合鍵は渡していたけどと使ったことなかったじゃんと思いながら、目の前の光景に頭がついていっていない。

見て分かんねぇかと言いながら、マサキは薄く笑った。
「コタツ出そうと思って。割と力仕事なんだな、コレ。」
よしっと言ってコタツ布団の上に天板を乗っけたマサキは軽く手を叩くと、未だに玄関に立っているユズに向き合った。

「早く入れよ。」

自分の家なのにオズオズとユズは足を踏み入れる。
玄関先はさすがに冷たい床の感触があったが、部屋の中心は暖房が効いていて暖かい。


どうしても顔がにやけてしまう。
初めて恋人が合鍵を使ってやってくれたことは、寒がりの私のために部屋を暖めて待つことだった。身体の中から、じわじわと込み上げてくるものがある。


「マサキ。」
慣れた手つきで2人分の緑茶を入れている恋人の背にユズは呼びかける。

「ん、どうかしたか?」

「ありがとう。」


「礼を言われるほどじゃねーよ。今日もお疲れ様。」
ゆっくりとした動作でコタツに緑茶を置いてから、マサキはユズの頭に手を置いた。




本当に暖かいのはアナタの隣だから
(「夕飯にポトフ作ったけど、食べるか?」「マサキ…。」「はいはい、温めるから待っとけ。」)
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