ふわのせ




かじかむ手を擦り合わせながら、曲がり角で一息つく。
カーブミラーで今日の恰好のチェックをする、彼に会うときはいつだって最高の状態で会いたいから。
肩についていた粉雪を払ってから、にこっと笑顔の練習。
今日は不破くんとの初デートなのだ、可愛い女の子な私になりきる。

「不破くん、待った?」
練習した笑顔で語りかけたが、彼はこちらを向いてくれなかった。
待ち合わせ場所の公園のベンチで彼はぶつぶつと呟きながら何かを考えていた。
「………不破くん?」
肩を叩くとその冷たさに驚いた、そして不破くんがわたしを見た。

「考え事をしていて気付かなかった、悪いな。」
ベンチに座った不破くんが立ったままの私を見上げる。
その顔や仕草にキュンとするが、顔には出さない。
だって今の私は、清楚な可愛い子だから。

「ううん、いいの。どうしたの、何を考えていたの?」
スカートを抑えながらベンチへと座ると全身が冷えた。
ただ、不破くんの体温がちょっとだけ感じられるようで心だけは暖かくなる。
「藤村に問われた命題を考えていた。」
遠くを見つめる彼と私の目線は交らない。
「恋と愛の違いだそうだ。」
真剣なその眼差しに射抜かれたい、そう思うのは贅沢なのだろうか。
もう不破くんの言葉しか耳に入らないほど、私は溺れているのに。


しばらく無言の状態が続いたが、友人に聞いたある話を思い出した私は声を上げた。
「あっ!それ有名な話じゃないの?」
その言葉に反応して、きょとんとした表情で不破くんが私を見る。
「ほら、恋は下心で愛は真心ってやつ。」
首をかしげる姿は友人のお墨付きだ、ここで発揮しなければと練習した通りに不破くんに微笑む。
「根拠が分からん。」
うんうんと悩む彼の姿をもう少し見ていたいけど、ここじゃ寒いからネタばらしをする。
「漢字。恋っていう字は下に心が付くから下心。愛っていう字は真ん中に心が入っているから真心だって。」
そうは言っても不破くんは腑に落ちないような表情を浮かべていた。

「下心と真心の定義が曖昧だ…。」
私の答えは彼にとって不十分だったらしい。
むっとしたような顔も今、私が独占していると思うと本当の私が顔を出す。
「一の世と付き合うことになったと言ったら、出された。恋愛というものをする際に、人が必ず解かなければならない課題だそうだが…。」
その言葉にはっとした。


----------私のために悩んでくれたみたいに思えたから


そして、何かが吹っ切れた。


「不破くん。」
呼べば、いつだって私の方を向いてくれる。
すっかり冷たくなった頬を暖めるように両の手のひらで包んだ。
訳が分からないという顔をした彼ににこりと微笑むと一気に顔を近づけた。

唇から全身に熱が巡る。


「下心とか真心とかはいいじゃない。」

---------私がこれから不破くんに恋愛を教えてあげる。


可愛い子な私は脱ぎ捨てて、本当の私が舌舐めずりしていた。




わたしの愛しい子
(お姉さんと一緒に恋愛しましょう)

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